関西人間図鑑  【第6回  

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すごい発見をした。でも僕だけの秘密
 子どものころ、5月から10月ぐらいまで河童のように川で泳いだ。
「川底の石をめくると虫がいるでしょ。虫を釣針につけて、釣糸を石に結んで沈めとくんです。しばらくしたら魚がかかるんですわ」腐らせないように釣った魚はその場で腹を裂いてはらわたを引き出す。
「腹の中に入っている虫を記憶しました」
魚の種類によって食べる虫は異なる。例えば、ウグイはトビゲラを食べる。好物がわかれば、ほしい魚を釣ることができた。
「すごい発見をしたと思いましたよ」
 奥さんが入れた薄めのコーヒーにミルクと砂糖をたっぷり入れると、ひときわ旨そうにすすった。
「でも、だれにも教えませんでしたね。僕だけの秘密です」
おもしろくて、おもしろくて、時間が足りない
「ナタは刀に比べれば、切れ味がなく輝きもしていないが、コツコツ叩いていれば大木だって倒すことができる」
 中学時代、恩師の言葉に感動した。ナタになりたいと思った。  
 国内に生息するカゲロウ目は約250種。そのうち100種あまりの新種を発見した。新種は顕微鏡を覗きながら、脚に生える細かな毛まで1本1本スケッチする。1匹を書き終えるのに10日かかった。
「カゲロウの生態がほとんど解明されていない時代やったから、発見の連続ですわ。おもしろくて、おもしろくて、時間がまったく足りませんでした。それで人間は最低どれくらい寝たら身体が持つんやろって、医者に聞いたんです。5時間寝たら大丈夫って言うもんやから」
 午前2時に寝て、午前7時に起きる。教職に就きながら、そんな学究生活を50年続けた。


 


≪分類≫
奈良産業大学 名誉教授目
理学博士科

≪生息地≫
奈良県五條市

≪年齢≫
78歳


≪分布≫
吉野川

≪活動時間≫
5時〜24時

≪好物≫
釣り

≪相棒≫
カゲロウ

≪天敵≫
おべっか

 
取材・文/北村 守康