関西人間図鑑  【第22回  

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見ちゃいけないキレイなもの
 初めて春画を見たのは、まだ幼い小学2年生のときだった。家の中でしたかくれんぼ。かくれた場所で、1本の古い巻物をみつけた。
「……なんやろ? これ」  
 興味津々で紐解くと、男と女が着物を乱して絡みあっている絵が目に飛び込んできたのだ。
「気持ち悪い!」  
 少女は初めて見る“様子”に、見ちゃいけないもの見ちゃった! という気持ちになった。……けれど、なんだかちょっと気になる。
「うわぁ〜! でも、キレイな絵だなって。浮世絵独特のあの色と、人物のやわらかな感じ。そういうところに惹かれたの」
 少女の中で、それは秘密の宝物になった。
「内容が内容だったから、家族には聞けないし、友達にも言えなかった。見に行くときは、ひとりでこっそりとね。見れば見るほど魅力的で」
溢れ出た想い
 中学生になったころ、家の備品を整理していた母の手に、あの巻物があった。
「見てみ。これはな、おじいさんが描いた“春画”ちゅうもんや」
 母はなんのためらいもなく、絵を見せてくれた。日本画家であった祖父が見習いのときに描いたもので、母が嫁に行く際にもらったらしい。……なんだ、祖父がこんなキレイな絵を描いていたんだ。母もキレイだと思ったんだ。『春画』という存在が、急に近く感じられた。 
 すると、恥ずかしいからと心の奥にしまっていた、春画をキレイだと感じる自分が解放された。それは「私もこんなキレイな絵が描きたい!」という強い思いになって溢れ出てきた。本格的に日本画を学びたい。もっと春画のことも知りたい。そんな思いに駆られて美術高校に進学した。父が倒れたあと、家業『金彩友禅』を継いだが、それでも思いが色褪せることはなかった。


 


≪分類≫
日本美術目 
染色科

≪生息地≫
京都・太秦

≪年齢≫
47歳


≪分布≫
京の街

≪活動時間≫
24時間

≪好物≫
描いたり考えたりする時間

≪相棒≫


≪天敵≫
描いたり考えたりすることができなくなった自分

 
取材・文/チノナツコ