関西人間図鑑  【第20回  

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美しい海底に沈む記憶
 恰幅のいい体躯に、小麦色の肌。ダイビング歴40年の白髪の似合う海の男だ。
「きっかけ? 工事現場の撮影やね。中央突堤の工事で、水中の鋼管にできたヒビ割れを撮影するんよ」
 以来、写真店を営みながら、水中カメラマンとして活 動してきた。  
 転機は今から30年前のこと。ミクロネシアのトラック諸島にダイビング仲間と遊びに行った。旧海軍の船が多く沈んでいる有名な海域だ。
「話には聞いてたんですが、そのとき初めて見たんです。今にも朽ち果てようとするボロボロの船を。愕然としましたね。日本はすっかり平和なのにって……」
 美しい海底で不意に出会った戦争の記憶。幼少の頃、空襲を逃れて疎開したときのことが甦った。朽ちていく船を写真に残そう。それはごく自然な行動だった。
高さ30センチの大反響
「トラック諸島へ沈没船の撮影に行くことを、テレビに出てしゃべったんです。そのとき、高田先生があんなこと言ったもんやから……」
 水中慰霊祭をすることになった顛末を尋ねると、苦笑しながら話してくれた。
「高田先生」とは薬師寺管主の故・高田好胤師。初めてトラック諸島を訪れた翌年、ふたたび撮影旅行に出ることになり、テレビ番組に出演した。そのとき、一緒に出ていた高田管主が 「坪本さんはトラック諸島に水中慰霊祭に行かれます。供養していただきたい方はお手紙を……」と、こう呼びかけたのだ。
「僕は写真を撮りに行くことしか考えていなかったんで、びっくりしましたよ。なに言い出すんやって」
 高田師の呼びかけは反響を呼び、供養を願う遺族からのハガキは高さ30センチにもなった。


 


≪分類≫
潜水目 
カメラマン科

≪生息地≫
大阪市港区築港

≪年齢≫
67歳


≪分布≫
南太平洋

≪活動時間≫
24時間

≪好物≫
行進曲

≪相棒≫
ダイビング用具

≪天敵≫

 
取材・文/細山田 章子