Since 【第28回  

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3 今すぐ出て行くな
「このまま会社にいたら、きっとええポストについていたと思うんです」  
 実際、社長から息子の教育係を頼まれたこともあった。しかし、「自分はどこに勤めていても、いずれは辞めてしまうやろうな」 という予感があった。かつて、思い描いた 「町工場の社長」の絵。自分の営業スタイルを上司に否定されて以来、「独立」への思いは次第に強くなっていく。
「それで、会社に独立するって言ったんです。僕はすぐにでも辞めるつもりだったけど、社長が『オマエが辞めるって言ったら、 取引先がうろたえるから、辞める直前まで言わんといてくれ。今すぐ出て行かんと、 年度末までいてくれ』って……」
「なんでも引き受け屋」の営業スタイルは会社に気に入られなかったが、顧客を満足させた実績は評価されていたのだ。
 上瀬さんは確かな手ごたえをつかみ、会社を辞めた。
4 6000円ボールペンに込めた思い
 代表取締役と刷られた名刺ができ上がったとき、「ああ、独立したんや」としみじみ思ったという。「そのとき、自分へのごほうびの意味も込めて、これを買ったんです」と、上瀬さんは1本のボールペンを出した。バーバリーのボールペンだ。
「ふだん、モノにはまったくこだわらなくて、ボールペンも100円のものを使っている」という上瀬さん。「6000円もした」というボールペンに、並々ならぬ決意が伺える。  
 会社を辞めるとき、「オマエに仕事を出す」といってくれた顧客がいたこともあり、起業時から仕事には困らなかった。ただ、 「なんでもひきうけ屋」の精神でヒヤリとしたことも。
「なにげなく、フォーラムを顧客に提案したら企画が通ったんです。そのための外注費がかさんだのに、顧客からの入金が少しずつしか入らない。ビビリましたね」  
 それでも、「お客さんのことを考えること」をやめなかった。「印刷機を回せ」とは、もうだれからも言われないのだから。 


 

≪KEY PERSON≫

上瀬 正洋氏(38歳)

≪PROFILE≫

[出生・出身地]
1969年 大阪市

[好きな言葉]
一喜一憂しない

[趣味・特技] 
特になし


≪COMPANY DATA≫

●創業●
2003年4月

●事業内容●
各種印刷物の企画・制作

●所在地●
大阪市北区東天満2-5-20 古林ビル2F


 
取材・文/細山田章子  写真/小島義秀